地域の祭事や年中行事を商店街に取り込む:古くて新しい連携による賑わい創出事例
はじめに
多くの商店街が来客数の減少や活気の低下といった課題に直面しています。一方で、地域には古くから受け継がれる祭事や年中行事が存在し、一定の人が集まる機会を創出しています。しかし、これらの行事が必ずしも商店街の賑わいに直接結びついていない現状も見受けられます。
この記事では、地域の伝統的な祭事や年中行事を単なる傍観者として捉えるのではなく、商店街が主体的に関わる、あるいは連携することで、新しい人の流れや地域住民との関わりを生み出したユニークな事例を紹介します。大規模な投資ではなく、地域の持つ文化や既存のリソースを工夫して活用した取り組みに焦点を当てます。
事例紹介:地域の夏祭りと連携した商店街の「体験型」企画
ある地方都市の商店街では、地域の大きな夏祭りが開催される時期に、例年多くの人出があるにも関わらず、商店街内部への回遊が少ないという課題を抱えていました。そこで、商店街振興組合は祭事の実行委員会と連携し、単なる出店や飾り付けに留まらない、「体験」を核とした企画を実施しました。
この企画では、夏祭りの開催期間だけでなく、その準備段階から商店街全体で祭事に関連する取り組みを展開しました。具体的には、以下のような活動が行われました。
- 祭事テーマの空間演出: 夏祭りの象徴的なモチーフ(例:提灯、浴衣柄)を商店街全体の装飾に取り入れ、祭り気分を盛り上げました。この装飾には、地域の学校の美術部やボランティア団体が協力し、予算を抑えつつ地域一体での取り組みとしました。
- 伝統文化の体験ワークショップ: 商店街の空き店舗や、一部店舗の軒先スペースを活用し、地域の高齢者や専門家を講師に招いたワークショップを開催しました。例えば、提灯の色塗り体験、浴衣の着付け体験、地域の伝統的な夏野菜を使った簡単な調理教室などが実施されました。これらのワークショップは少額の参加費を設定し、材料費や講師謝礼に充当しました。
- 祭事関連商品の開発・販売: 各店舗が祭事のテーマに合わせた限定商品やサービスを提供しました。和菓子店は祭り限定の創作和菓子、雑貨店は手作りの浴衣小物、飲食店は地域の夏野菜を使った特別メニューなどです。これらの商品は、商店街共通のマップやSNSで情報発信されました。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は、個人でも手軽に情報を発信できるインターネット上のサービスであり、イベント告知や商品の紹介、日々の出来事などを文字や写真、動画で共有することで、多くの人に情報を届け、関心を持ってもらう目的で活用されます。
- 回遊促進のための仕掛け: 祭事会場と商店街を結ぶ導線上に、歴史的な建物の解説パネルを設置したり、スタンプラリーを実施したりして、来場者が商店街を歩き回るきっかけを作りました。スタンプラリーの景品は、商店街の各店舗が提供する割引券や小物とし、再来店を促しました。
事例紹介:年末年始の伝統行事を活かした商店街の交流イベント
別の商店街では、年末年始に地域に伝わる餅つきや年越しの食文化といった伝統行事があることに着目しました。これらの行事を商店街の賑わいにつなげるため、商店街組合と地域の自治会、農業組合、NPOなどが連携したイベントを企画しました。
このイベントでは、商店街の一角に特設会場を設け、地域住民が昔ながらの方法で餅つきを体験できる場を提供しました。また、地域の農業組合から仕入れた新鮮なもち米や、地域で栽培された大豆を使ったきな粉などを使用し、地域の食材のPRにもつなげました。
さらに、商店街の飲食店や食料品店が連携し、地域に伝わる年越しの料理(例:雑煮の地域別レシピ紹介と試食、年越し蕎麦の食べ比べ)を提供する屋台やブースを出展しました。会場では地域の伝統芸能の披露も行われ、地域住民や帰省客、観光客などが集まる交流の場となりました。
この取り組みでは、地域の高齢者が餅つきの指導や伝統料理のレシピ提供で活躍するなど、地域住民のスキルや知恵が活かされました。また、地域で活動するNPOがイベントの企画・運営の一部を担うことで、商店街組合の負担を軽減しつつ、多様な人材を巻き込むことが可能となりました。
なぜこれらの事例は成功したのか
これらの事例に共通する成功要因は、以下の点が挙げられます。
- 地域資源としての「祭事・年中行事」の再認識: 単なる通過点や観賞対象ではなく、商店街が関わることで新しい価値を生み出せる「地域資源」として、祭事や年中行事のポテンシャルを捉え直しました。
- 「体験」と「交流」の提供: 商品販売だけでなく、参加者が手や体を動かしたり、地域の人々と触れ合ったりする機会を提供しました。これにより、商店街に来る目的が多様化し、滞在時間の延長やリピートにつながりました。
- 既存リソースと低予算の工夫: 空き店舗、軒先、地域住民のスキル、地域の食材、既存の祭事動線など、地域に元からあるものや少額の費用で賄えるリソースを最大限に活用しました。大規模な施設建設や広告費に頼らず、地域内の循環を意識しました。
- 多様な関係者との連携: 祭事実行委員会、自治会、地域住民、学校、NPO、農業組合、他の商店街店舗など、様々な立場の人々がそれぞれの得意なことを持ち寄り、協力体制を構築しました。これにより、企画の幅が広がり、より多くの人を巻き込むことが可能となりました。
- ストーリーと文化の発信: 地域の伝統や文化に触れる機会を提供することで、単なる買い物では得られない、心に残る体験を提供しました。これにより、商店街が地域の歴史や文化を伝える「場」としての魅力を持つことにもつながりました。
まとめと示唆
地域の祭事や年中行事は、商店街にとって大きな可能性を秘めた地域資源です。これらの事例が示すように、単にイベントに乗っかるのではなく、商店街が主体的に企画に関わったり、祭事と連携した独自の「体験型」や「交流型」の取り組みを低予算で実施したりすることで、新しい顧客層を呼び込み、既存の地域住民との絆を深めることができます。
ご自身の商店街や地域の年中行事を見つめ直してみてください。そこにどのような伝統や文化があり、どのような人々が関わっているでしょうか。自店舗の持つスキルや、商店街にある空きスペース、他の店舗との連携で、その行事を商店街の賑わいにつなげる新しいアイデアが生まれるかもしれません。地域の祭事や年中行事を核とした取り組みは、商店街が地域文化の発信基地となり、住民にとってなくてはならない「ふるさとの景色」の一部であり続けるための一つの有効な手段となり得ます。