商店街の『配送』を地域の新しい強みに:店舗連携で広がる顧客サポート
商店街が直面する買い物環境の変化
少子高齢化や人口減少、大型店の郊外への進出といった社会構造の変化に伴い、地域の商店街は顧客の来店頻度減少や売上の低迷といった課題に直面しています。特に、高齢化が進む地域では、店舗までの移動が困難な方が増え、日常の買い物に不便を感じる「買い物弱者」と呼ばれる方々の存在も顕在化しています。
このような状況に対し、各店舗が個々に対応することは、人員やコストの面で大きな負担となります。しかし、商店街全体として連携し、新しいサービスを提供することで、これらの課題解決の糸口が見つかることがあります。その一つとして注目されているのが、商店街が一体となって取り組む「配送サービス」です。
連携による配送サービス:ある商店街の事例
ある地域商店街では、顧客層の高齢化が進み、「お店に行きたいけれど、荷物を持って帰るのが大変」「体調が優れず、なかなか外に出られない」といった声が多く聞かれるようになっていました。これに対し、商店街振興組合が中心となり、各店舗と連携した配送サービスの立ち上げを検討しました。
この商店街では、大規模な物流システムを導入するのではなく、地域に根差した小さな運送業者や、商店街近隣に住む退職者の方々を配送スタッフとして巻き込む形でサービスを構築しました。
具体的な仕組みは以下の通りです。
- 注文受付の連携: 各店舗での電話やファックスによる注文に加え、商店街のウェブサイトやSNSでも注文を受け付ける窓口を設置しました。ウェブサイトには各店舗の商品情報や連絡先を掲載し、オンラインでの注文も可能にすることで、デジタルツールの利用に抵抗がない世代の利便性も高めました。
- 集荷と仕分け: 商店街内の空き店舗を一時的な集荷・仕分け拠点として活用しました。各店舗は、その日の注文商品を午後の特定の時間までにこの拠点に持ち寄ります。
- 共同配送ルートの設定: 集荷された商品を地域別に分け、最も効率的な配送ルートを設定します。地域の運送業者や委託スタッフが、これらの商品をまとめて各家庭に届けます。これにより、1軒の顧客に対し複数の店舗がそれぞれ配送する非効率さを解消しました。
- 決済方法の多様化: 代金引換に加え、一部店舗では事前決済システムを導入するなど、顧客が利用しやすい決済方法を用意しました。
なぜこの取り組みは効果を上げたのか
この商店街の配送サービス連携が成功した背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 既存リソースの活用と低コスト化: 新たに大規模な設備投資を行うのではなく、地域の小さな運送業者との連携や、地域住民の力を借りることで、初期費用や運営コストを抑えることができました。空き店舗を有効活用できたことも、コスト抑制に繋がりました。
- 地域ニーズへの合致: 買い物に不便を感じていた高齢者層を中心に、サービスの利用が広がりました。「重い物やかさばる物も気軽に注文できるようになった」「悪天候の日でも助かる」といった声が多く寄せられ、顧客満足度の向上に繋がりました。
- 単なる配送にとどまらない付加価値: 配送スタッフが地域住民と日常的に接することで、高齢者の見守り的な役割も果たしました。また、商品の受け渡しだけでなく、ちょっとした世間話をするなど、人との繋がりを生む場ともなり、地域コミュニティの活性化にも貢献しました。
- 複数店舗連携のメリット: 顧客は一度の注文・配送で複数の店舗の商品を購入できるようになり、利便性が飛躍的に向上しました。これは、個店単独では提供できない商店街ならではの強みとなりました。
- デジタルとアナログの融合: ウェブサイトやSNSといったデジタルツールで若年層や共働き世代の注文に対応しつつ、電話やファックスでも注文を受け付けることで、デジタルが苦手な高齢者層も置き去りにしない配慮が行われました。
連携による配送サービスが商店街にもたらす可能性
商店街が連携して配送サービスを構築することは、単に顧客の利便性を高めるだけに留まりません。
- 新規顧客層の獲得: 来店が困難だった顧客層に加え、忙しくて商店街まで足を運ぶ時間がない層など、新たな顧客を取り込む機会が生まれます。
- 売上の向上: 顧客一人当たりの購入頻度や購入額の増加に繋がる可能性があります。
- 商店街の認知度向上: 配送サービスを通じて、商店街全体の存在や各店舗の魅力が地域住民により広く認知される機会となります。
- 地域社会への貢献: 買い物弱者支援という形で、地域社会における商店街の役割や存在価値を高めることができます。
- 店舗間連携の深化: 共同でサービスを運営する過程で、店舗間の連携が深まり、新たな協力関係や共同事業が生まれやすくなります。
自商店街でこのような配送サービスの導入を検討される際は、まず地域の顧客層の構成やニーズを把握し、どのような配送体制が最適かを議論することが重要です。また、商店街内のリソース(空き店舗、協力可能な人材など)や、既存の地域の配送業者との連携の可能性についても検討を進めることが、実現に向けた第一歩となるでしょう。大きな投資をせずとも、地域の知恵や協力体制を活かすことで、商店街は地域にとって不可欠な「便利」を提供する新しい拠点となり得るのです。