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商店街全体で顧客を知る:データ共有が拓く新しい連携と販促

Tags: 顧客データ, データ分析, 商店街連携, 販促, デジタル活用

商店街全体で顧客像を捉えるという視点

商店街を取り巻く環境が変化する中で、個々の店舗がそれぞれの努力を続けることと同様に、商店街全体として来店される方々を理解し、対応していくことの重要性が増しています。各店舗は日々の営業を通じて、様々なお客様と接し、購買に関する情報を得ていますが、その情報は個店の範囲に留まりがちです。

ここで新しい視点として提示したいのが、「商店街全体で顧客データを知り、共有・活用していく」という考え方です。個店だけでは見えない商店街全体の顧客の傾向や行動パターンを把握することで、より効果的な販促やサービス開発、そして店舗間の連携が可能になります。

なぜ商店街全体での顧客データ活用が必要か

個々の店舗だけでは、お客様が商店街全体の中でどのように回遊しているのか、どのような層のお客様が多いのか、特定の曜日の特定の時間帯にはどのようなニーズがあるのか、といった全体像を把握することは困難です。しかし、商店街を訪れる方々のデータを collectively(集合的に)見ることができれば、例えば「平日の午前中は近隣に住む高齢者の来店が多い」「週末の午後は子育て世代が商店街全体を複数店舗回遊する傾向がある」といった具体的な傾向が見えてきます。

このような全体的な顧客像を理解することは、以下のような新しい取り組みに繋がります。

低予算で始めるデータ共有・分析の第一歩

「データ活用」と聞くと、大規模なシステム投資が必要だと感じるかもしれません。しかし、商店街が全体でデータ共有・分析を始めるにあたって、必ずしも高額な初期投資が必要なわけではありません。

まず考えられるのは、既存の仕組みや安価なツールを活用する方法です。

重要なのは、最初から完璧なシステムを目指すのではなく、商店街の規模や予算に合わせて、可能な範囲でデータ共有と分析を試みることです。例えば、まずは週に一度、各店の簡単な来店者数や売上データ(合計値など)を持ち寄り、傾向について話し合うことから始めても良いでしょう。

成功事例に見る連携の工夫

ある地方の商店街では、地域通貨を導入する際に、併せて簡単な顧客管理機能を備えたシステムを導入しました。システム利用には各店舗の同意と、顧客への丁寧な説明による理解促進が不可欠でした。このシステムで得られたデータ(地域通貨の利用店舗、利用額、利用頻度など)を、個人が特定されない統計情報として定期的に集計し、商店街振興組合の会議で共有・分析しました。

その結果、「特定の飲食店を利用する顧客の多くが、同じ日に近隣の雑貨店や書店も訪れている」という傾向が明らかになりました。この発見を元に、飲食店と雑貨店・書店が連携し、飲食店のレシート提示で雑貨店・書店で割引が受けられる共同キャンペーンを実施しました。これにより、それまであまり連携のなかった店舗間に新しい顧客の流れが生まれ、商店街全体の回遊性が向上しました。

この事例の成功要因としては、以下の点が挙げられます。

  1. 目的の明確化: データ活用の目的が「商店街全体の活性化」という共通認識であったこと。
  2. プライバシーへの配慮と説明: 顧客や店舗に対し、どのようなデータを、何のために利用するのかを丁寧に説明し、同意を得たこと。
  3. 小さな一歩から: 高度な分析ではなく、まずは地域通貨の利用データという既存の仕組みから得られる情報を活用したこと。
  4. 分析結果の共有と連携: データ分析の結果を共有する場を設け、それに基づいた具体的な連携施策に繋げたこと。

読者が自身の商店街で考えるヒント

この記事で紹介した商店街全体でのデータ共有・分析は、あなたの商店街でも実践できる可能性があります。まずは、あなたの商店街で現在収集できている情報(例えば、ポイントカードの利用状況、イベント時の来場者数など)を見直すことから始めてみてください。そして、他の店主の方々と「どのような顧客が商店街に来ているのか」「顧客は商店街の中でどのように動いているのか」といったことについて話し合い、情報を共有する機会を設けてみるのはいかがでしょうか。

専門的なツールは後からでも導入できます。重要なのは、商店街全体として顧客を理解しようとする意識を持ち、小さなことからでもデータに基づいた話し合いや連携を始めることです。顧客をより深く知ることは、商店街の未来をデザインするための確かな一歩となるでしょう。