地域の企業のリソースを活用する商店街:社員のスキルや福利厚生と連携した事例
商店街再生における異業種連携の可能性
商店街が抱える課題として、来客数の減少や後継者不足といった点が挙げられます。こうした状況に対し、従来の枠にとらわれず、地域内の異なる主体との連携を模索する動きが見られます。特に地域の企業や法人との連携は、商店街に新しい視点とリソースをもたらす可能性を秘めています。単なる経済的な支援やイベント協賛に留まらない、企業の持つ多様なリソースを活用した連携事例をご紹介します。
企業の「福利厚生」と商店街の連携
地域の企業は、従業員の働きがい向上や健康増進のために様々な福利厚生プログラムを設けています。この「福利厚生」という枠組みを商店街の活性化に繋げる事例が見られます。
例えば、ある地域では、地元企業が従業員向けに商店街の店舗で利用できる共通割引券や食事券を配布しました。これにより、従業員は昼休みや終業後に商店街を訪れる機会が増え、新たな顧客の流れが生まれました。企業側にとっては従業員満足度の向上に繋がり、商店街側にとっては安定した集客と売上増加が見込めます。大規模なシステム導入ではなく、各店舗が割引や特定のメニュー提供で協力し、企業が費用を負担するという比較的シンプルな仕組みから始めることが可能です。
また、別の事例では、企業が自社のリフレッシュルームや休憩スペースの一部を商店街店舗の商品(コーヒー、軽食など)を提供する場として活用したり、企業の会議室や研修施設を商店街のイベントや打ち合わせスペースとして提供したりしています。これは、企業が持つ既存の物理的リソースを地域に開き、商店街との接点を生み出す取り組みと言えます。
企業の「スキル・人材」を活用した商店街支援
企業には、本業を通じて培われた専門的なスキルを持つ人材が多数在籍しています。こうした社員のスキルや知識を、商店街の課題解決に活かす連携も進んでいます。
例えば、IT企業やWeb制作会社が、商店街の個店向けにデジタル化支援を行う事例があります。具体的には、簡易的なホームページ作成、SNSアカウント開設・運用のアドバイス、キャッシュレス決済導入のサポートなどが挙げられます。これは、企業の持つ技術力を地域貢献活動(CSR活動)の一環として提供するもので、商店街側にとってはデジタル分野の専門知識を得られる貴重な機会となります。
デザイン会社や広告代理店であれば、商店街全体のブランディングや店舗個別の看板デザイン、チラシ作成などをサポートできます。経営コンサルティング会社であれば、個店の経営相談や事業計画策定の助言を行うことも可能です。
これらの連携は、必ずしも大規模な予算を必要としません。企業のボランティア活動として、あるいは社員研修の一環として、数名の社員が一定期間商店街の支援を行う形式で実施されることもあります。企業側にとっては社員の多様な経験機会の提供や、地域における企業イメージ向上に繋がります。
地域貢献活動を通じた連携強化
多くの企業は、社会の一員として地域貢献活動(CSR:Corporate Social Responsibility)に力を入れています。このCSR活動と商店街の取り組みを結びつけることで、連携を深めることができます。
例えば、企業が主催する清掃活動の後に、商店街の飲食店が参加者に割引サービスを提供したり、企業の会議室を休憩所として開放したりする事例があります。これにより、清掃活動への参加者が増加し、さらにその参加者が商店街を利用するという好循環が生まれます。
また、企業が持つ施設(会議室、研修室、グラウンドなど)を商店街のイベント会場として提供したり、企業の社員が商店街のイベント運営スタッフとして協力したりすることも有効です。企業側は施設や人材の有効活用ができ、商店街側はイベントの規模拡大や運営負担軽減に繋がります。
連携成功のためのヒント
こうした地域企業との連携を成功させるためには、いくつかのポイントがあります。
まず、企業と商店街の双方にとってメリットがある関係性を築くことが重要です。企業側が地域貢献や社員の福利厚生・研修といった目的を持ち、商店街側が集客や課題解決といった目的を持つことを明確にし、共通の目標を設定することが出発点となります。
次に、最初から大規模な連携を目指すのではなく、特定の店舗や特定の企業と、小さな取り組みから始めることが推奨されます。例えば、一つの店舗が特定の企業の社員向けにランチサービスを提供することから始め、徐々に連携の範囲を広げていく方法です。
また、定期的なコミュニケーションを取り、互いの状況やニーズを理解し合うことも不可欠です。企業担当者と商店街の代表者が定期的に情報交換会を持つことなどが有効です。
まとめ
地域の企業や法人は、商店街にとって単なる資金提供者ではなく、多様なリソース(人材、スキル、施設、ネットワークなど)を持つ重要な連携パートナーとなり得ます。企業の福利厚生やCSR活動といった既存の枠組みを活用し、新しい視点とアイデアで連携を築くことは、大規模な投資に頼らずとも商店街に新しい人の流れと価値を生み出す可能性を秘めています。
自らの商店街や店舗の課題に対し、地域にどのような企業があり、どのようなリソースを持っているのかを改めて調査し、対話の機会を持つことから、新しい連携の糸口が見つかるかもしれません。企業の持つ「外の視点」と、商店街の持つ「地域の知恵」が組み合わさることで、ユニークな地域ビジネスが生まれる可能性は大いにあります。