「働く場所」を商店街に作る:空き店舗と新しい人流を生む仕掛け
商店街の新しい可能性としての「働く場所」
近年、働き方の多様化が進み、テレワークやリモートワークといったオフィス以外の場所で働くスタイルが一般化しています。これにより、人々の日常的な活動エリアが変化し、商店街においてもこれまでとは異なる視点での賑わい創出が求められています。
このような状況において、商店街を単なる「買い物をする場所」だけでなく、「働く場所」としても捉え直す動きが見られます。地域住民や、場合によっては都市部からのリモートワーカーが商店街内で仕事をするようになれば、日中の人流が増加し、既存店舗への波及効果や新たな交流の生まれる可能性があります。ここでは、商店街を「働く場所」として活用し、新しい人流と賑わいを生み出したユニークな地域ビジネス事例を紹介します。
事例1:空き店舗を活用した地域密着型コワーキングスペース
ある地方都市の商店街では、長年空き店舗となっていた元衣料品店を改修し、地域住民向けのコワーキングスペースとして再生させました。このスペースは、高速Wi-Fiや電源といった基本的な設備に加え、打ち合わせに使える小さな会議室や、気分転換ができる休憩スペースを備えています。
大規模な投資は困難であったため、改修費用は地域住民や地元企業からの寄付、そして地域クラウドファンディングを活用して調達しました。クラウドファンディングとは、インターネットを通じて多くの人々から資金を調達する仕組みです。この事例では、出資者へのリターンとして一定期間のスペース利用権などを設定することで、資金調達と同時に潜在的な利用者や応援者を募ることに成功しました。
運営は、商店街の有志と地域住民のNPOが協力して行っています。利用料金は時間単位や月額制で設定されており、商店街の他の店舗で使える割引クーポンを配布するなど、回遊性を高める工夫も行っています。この取り組みにより、これまで商店街に来る機会が少なかったテレワーカーやフリーランス、資格取得を目指す学生などが日常的に訪れるようになり、スペース利用者同士や利用者と商店街の人々との間で新たな交流が生まれています。
事例2:既存店舗の一部を活用した分散型ワークプレイス
別の商店街では、複数の飲食店や喫茶店、書店などが連携し、店舗の営業時間中の一部スペースを「ワークプレイス」として提供する取り組みを始めました。参加店舗は、利用者が仕事に集中できるよう、電源コンセントやWi-Fiの利用環境を整備し、「ワークプレイス利用可」のステッカーを店頭に掲示しています。
この事例のユニークな点は、新たな施設を設けるのではなく、既存の店舗資源を有効活用している点です。初期投資を抑えつつ、商店街全体をあたかも一つの大きなワークプレイスのように機能させています。利用者は専用のウェブサイトやアプリで各店舗の混雑状況や設備を確認し、その日の気分や目的に合わせて働く場所を選ぶことができます。
収益の一部は、ワークプレイスとして利用された時間に応じて各店舗に分配される仕組みです。また、利用者にとっては、仕事の合間に気軽に食事や買い物を楽しむことができるメリットがあります。この連携により、これまで昼間の時間帯が比較的静かだった店舗にも、新しい顧客層が訪れるようになり、商店街全体の活気向上につながっています。
新しい人流と価値を生むための示唆
これらの事例から、商店街を「働く場所」として捉えることは、新しい人流を呼び込み、地域に新しい価値を生み出す有効な手段となり得ることが分かります。成功の鍵は、以下の点にあると考えられます。
- ニーズの把握: どのような人々が、どのような環境で働きたいのか、地域の特性を踏まえてニーズを把握することが重要です。
- 既存リソースの活用: 空き店舗や既存店舗の遊休スペース、地域住民のスキルなど、今ある資源を最大限に活用することで、低予算での実現が可能になります。
- 地域内外との連携: 商店街内の店舗間の連携はもちろん、地域住民、企業、NPO、行政など、多様な主体との協力が、資金調達や運営体制の確立、利用者層の拡大につながります。
- 「働く」以外の付加価値: 単に場所を提供するだけでなく、利用者同士や地域住民との交流機会を設ける、商店街ならではのサービスを提供するなど、「ここで働くこと」ならではの付加価値を生み出す工夫が、魅力向上と継続的な利用促進につながります。
商店街における「働く場所」づくりは、大規模なオフィスビルを誘致するのではなく、地域のスケール感や魅力を活かしながら、多様な人々が集まり、交流し、新しい活動を生み出すきっかけとなり得ます。これらの事例を参考に、皆様の商店街でも「働く場所」という新しい視点から、地域の未来を考えるヒントとしていただければ幸いです。